Message from MASUO
増尾好秋からのメッセージ…ペンシルバニア/ニューヨーク/日本から

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上が新しく, 下が古い

2007年

Wikipedia ソニー・ロリンズの項から来た方、1つ下の記事ヘスクロールして
  カーネギーホール デビュー50周年コンサートについてお読みください↓

 

2007年10月07日
 

新レーベル と 新作について

 僕の新しいアルバムのお知らせです。かれこれもう10年ぶりのアルバムになります。タイトルは Life Is Good。人生の楽しい事、哀しい事、愛情、温かい友情、そんな物がいっぱい詰まってる音楽になりました。

僕達の世代も60代に突入、人生が見えて来ましたね。最近つくづく、 生きている事って本当に素晴らしい、っと思っています。哀しい事や大変な事も沢山あるけれど、今僕はこの人生を本当に楽しんでいます。生 きている事の尊さや美しさ、喜び、そんな物全てに感動出来る気持でいっぱいです。そんな僕の気持を皆さんと分かち合いたいと願っています。僕の音楽を聞いて皆さんが少しでも楽しい平和な幸せな気持になれたら本望です。

前作のメンバー Larry Goldings (Organ), Lenny White (Drums) を中心に、今回は Bill Mays Trio や、久しぶりに Bass の T.M Stevens や Drums の Tony Cintron Jr も参加したり、今の僕の音楽全てを表すバラエティーに富んだ内容になりました。
このアルバムは僕自身の決断で、レコード会社という物を通さずに自分で出す事にしました。雑誌等の宣伝はいっさいしないしレコード屋にも出しません。要するに僕が作った音楽を僕が直接皆さんに手売りするという事ですね。

自分のレーベルを作り Sunshine Ave. Label (サンシャインアベニューレーベル)と名付けました。まだ出していませんがインターネットにサイトを出します。アドレスは masuomusic.com です。この新作の情報等を全て載せますし、少し試聴も出来る様にします。もし気に入ってくれたなら、どのようにすれば CD が手に入るのかとか、またはダウンロードする事も出来る様にしますから、僕のお店だと思って気楽に訪ねて下さい。今まだ作っている所なので出来上がりしだい 告知します。僕みたいにコンピューターが得意ではない人にでも解りやすいユーザーフレンドリィーなサイトにするつもりですから是非行ってみて下さいね。

このレーベルの方針は、Jazz だけにこだわらずもっと広い意味でジャンルを超えた音楽を出して行きます。そう、まさに MASUO MUSIC ですよ。僕自身の作品を中心に、僕がプロデュースした他の人の作品等も同時に出して行こうと思っています。とにかくこのレーベルに関しては全て自分で好きな様に決めれば良い事、画期的に前例にとらわれない MASUO 流のやり方でやって行こうと思っています。
皆さん、乞うご期待。

増尾好秋

※この文は、もともとは Sunshine Ave レーベルのお知らせページ
掲載用に書かれたものです。

【ソニー・ロリンズのカーネギーホール デビュー50周年コンサート】

2007年9月26日
 

Sonny Rollins 50th Anniversary Concert

9月18日Carnegie Hall で行われた Sonny Rollins 50th Anniversary Concert に行って来ました。とても心に触れたコンサートだったので僕の気持を書いておこうと思いました。数年前にもこの同じカーネギーホールで Jim Hall や Jimmy Heath Big Band がゲストのコンサートがあったので聞きに行きましたが、それが最後だったので Sonny を聞きに行くのは本当に久しぶりだったんです。New York には多くのコンサートホールがありますがカーネギーホールはやはりスペシャルですね。とても華やいだ雰囲気があるんです。今夜のプログラムを読んでいたら Sonny は 1957年11月29日に始めてカーネギーホールの舞台に立ったとの事、だから 50 周年記念コンサートなんですね。その時のバンドの編成はベースが Wendell Marshall, ドラムが Kenny Dennis のトリオだったので、このコンサートの 一部は ベース Christian McBride (クリスチャン・マクブライド) (b), ドラム Roy Haynes (ロイ・へインズ) (ds) のトリオで始まりました。
客入れに時間がかかったのか司会の Gil Noble が出て来たのは予定開演時間の8時をだいぶ過ぎていました。会場は Sonny を愛するファンで満杯、始まる前から熱気につつまれていたので司会者に紹介されて Roy , Christian それに Sonny がステージに出て来ると、会場は大歓声に包まれて客全員がいきなり総立ちになってしまいました。先頭の Roy は軽々しい歩調で颯爽とドラムに向かって歩いているし Christian もサッサとベースのところに行きますが、最後に Sax を抱えて出て来た Sonny はゆっくりノッシ...ノッシ、ユッサ...ユッサという感じで何となく足元がおぼつかないんです。だいじょぶかなぁ~と少し心配になってしまいました。   余談になりますが今夜コンサートに出かける時 Shirley と話していたんです。久しぶりだから Sonny に何か持って行く物あるかな~って僕が言ったら....スカーフ持って行こうか....って Shirley が言ったんです。そこで二人で大笑い。これは僕達二人にしか解らないジョークなんです。時は20年以上前にもどって Town Hall Concert での事、Wynton Marsalis がゲストでした。コンサートが始まって一曲目の途中 Sax を吹きながら後ろに下がって来た Sonny が僕のギターエフェクターに足を引っかけてそのまま後ろにヒックリかえってしまったんです。数秒待っても起き上がってこないので彼の手を握って起こそうと思ったのですがもう気を失っていたんです。コンサートが始まって5分も経ってなかったんだと思う。それでバンドがストップして会場が大騒ぎになってカーテンが降りてコンサートは終わり。Sonny が楽屋に運ばれた後、ステージにもどると Sonny が倒れていた所にスカーフが落ちていたんです。黒のシルクのスカーフ。後で Sonny に返してあげようと思ってギターケースに入れました。でもそれからいろいろあって、時間も経って、返す機会を逃してしまったんですね。だから今でもそのスカーフを持っているんですよ。勿論今から返しても良いんだけれど決して良い思い出じゃないからその事を思い出させるのも悪いし、まあ~いいか....ってそのままになっている訳なんです。 さらに余談になりますが、その一ヶ月後に今度は Beacon Theater で改めてそのコンサートをやったのですがその時の Sonny は本当にスバラシかったんですよ。  
歓声が止む前にいきなり一曲目が始まったので最初は音がよく聞こえないんです。 Sonny Moon for Two ! みんな席に座り静かになって目の前で起っている演奏に引きずり込まれて行く。僕はハラハラしながら手に汗を握り、Sonny ガンバレ! みたいな気持ち、一人のファンとして聞いていました。彼の一挙一動を見ながら Shirley と顔を見合わせて笑ってしまったり、声を出したり、足踏みしたり。
二曲目はバラードで Some Enchanted Evening 。 Sonny は結局メロディーを吹いただけだったのですが、僕にはこの一曲だけでこのコンサートに来た価値がありました。心にジーンと感じてしまいました。
またまた余談になりますが Mark Soskin と余日電話で話していたんです。Mark はコンサートに来れなかったので、ど~だった?っていう訳です。ミュージシャンもたくさん来ていたので他の人からすでにこのコンサートの話を聞いていたんですが、僕と話すときは Sonny と一緒に演奏した経験がある人しか解らない微妙な事柄を分かち合えるからなんです。僕達は Sonny のバンドで一緒に演奏する事は無かったのですが仲間意識があるんですね。彼と話しながらこのコンサートについての自分の 印象を整理していました。   ハッキリ言って Christian と Roy のコンビネ ーションは別になんて事は無かったんです。Sonny の調子もまあまあだったんだと思います。でも目の前のステージで100%全力で自分の全てを出し切って無我で演奏している Sonny を見て聞いて、これがまさに Jazz って音楽の全てなんだなって感動していたんです。その瞬間と時間をカーネギーホールで多くの人達と一緒に経験出来たって事が尊い事だったんだなって気がついた訳です。この経験は僕の記憶の中に焼き付いて一生忘れないんだと思います。
僕自身いつも演奏する方の立場で来ているので意外と聞きに来ている人の気持とか解っていないんですよ。演奏する方は自分の事を中心に良い演奏だったとか、つまらない演奏をしてしまったとか考えてしまうんですが、Jazz を聞きに来ている人々はそんな事以上にその場でその時間を一緒に経験するって事に楽しみというかそこに美味しさを感じているんですね。....なんて自分で勝手にそんなふうに感じてしまったのですが....僕を聞きに来てくれる皆さんは実際どんなふうに聞いているのでしょうか?   とにかくそんな事を考えてまた音楽に対する自分の気持が新鮮になった気がしました。
Mark としみじみと話していたんです。Sonny と一緒に音楽をする事が出来た僕達は本当にラッキーな人間だねって。
三曲目は Mack the Knife。この三曲を1957年のコンサートの時に演奏したんですね。今夜の演奏は Live Recording されているとの事。 眼をつぶって聞いていると自分のギターの音が聞こえて来るんです。時間が経ってあらためて自分のギターが Sonny のバンドの中でどのような存在であったのかよく解るんです。そんな聞き方が出来るって本当に幸せです。そんな幸せな気持が僕のエネルギーになっているんですね。 この三曲で一部は終わり。

休憩をはさんで二部は今のレギュラーバンドです。
 Clifton Anderson トロンボーン、Bobby Broom ギター、
 Bob Cranshaw ベース、Kimati Dinizulu パーカッション、
 Steve Jordan ドラム。  クリフトン・アンダーソン, ボビー・ブルーム,
     ボブ・クランショウ, キマチ・ディニズル, スティーブ・ジョーダン.

一曲目は同じパターンを繰り返すアップテンポのモード調の曲。新曲なんだと思います。まず Clifton がソロをとって次に Bobby 。Sonny のソロが始まると僕達の座っていた席から10列位前に座っていた Lee Konitz が席を立って出て行ってしまいました。休憩時間に彼がいるのを見つけたのですが他の人と話していたので終わってから挨拶しようと思っていたのに結局そのまま帰ってしまったんですね。ミュージシャンもいろいろ。Lee は昔から Sonny を尊敬しているのに、そういった演奏を良しとしないんです。  
二曲目もきっと新曲なんだと思います。シンプルなメロディーのカリプソ調。
三曲目も知らない曲でスタンダード形式のミディアムスウィング。きっと全部 Sonny のオリジナル曲だったんだと思います。
最後の四曲目は Don't Stop the Carnival 。踊る様に身体を動かして吹いている Sonny を見ているといかに音楽を演奏する事を楽しんでいるのかヒシヒシと伝わって来るんです。パーカッション ソロやドラム ソロがあって盛り上がって終わり。みんながステージから引き揚げてしまっても拍手が鳴り止まない。最後に Sonny 一人が出て来て手を振ってみんなに挨拶してコンサートは終わりました。

せっかく来たんだから楽屋に会いに行く事にしました。ステージに向って歩いているとちょうど Bobby が出て来て、Hey !!
Bobby に会うのも久しぶり。彼 今はシカゴに住んでいるんです。2年位前に僕の Are You Happy Now を聞いたよって。すごく良かったって言ってくれました。 Bobby と一緒にやっていたのがもう20年前になるけれどその時に使っていた同じ革のギターケースをまだ使っていたのを見て嬉しくなってしまった。
楽屋の入り口は人でいっぱい。ゲストパスが無いと楽屋には入れないとの事。うるさそうなガードマンが立っているんです。何とか誰か出て来ないかなあと人ごみの中待っていました。Alt Sax の Rene McLean (Jackie McLean の息子) が居たので立ち話をしていたら何と Bob Mover が現れたんです。
Bob Mover は僕にとって特別な人物なのでここで彼の事を少しみんなに紹介したいと思います。 Phil Woods の事を書いた時に Bob の名前が出て来ましたが、彼は僕がこちらに住む様になって親しくつきあう様になった最初のミュージシャン友達なんです。僕が Lee Konitz と The Onliest Place というクラブ (前は Half Note だった場所)で演奏している時に会ったんです。 Alt Sax 吹き。僕より数歳若いのですが昔から音楽の好みが古めで渋いんです。彼のおかげで前は全然聴かなかった様な音楽にも頭を突っ込む様になりました。ギターでいうと Django とか Jimmy Rainy とかね。その頃は日系ブラジル人のミヨコという年上の女性と結婚していました。住んでいた所も Village で近かったんです。僕達が Thompson Street。彼等は MacDougal Street に住んでいました。その頃は二人でよく練習したり仕事をしたりしていたので僕が New York に住む様になってからの始めてのアルバム 111 Sullivan Street に彼がフィーチャーされています。そのレコーディングが彼の始めてのレコーディングだったんです。僕と彼とは全く対照的な性格で全く正反対。111 Sullivan Street を聞くとその対象が面白いですね。面白い事と言えば、最後の 曲 Without a Song を聞いて下さい。彼のソロの2コーラス目の頭、指がもつれて Shit ! なんてどなっちゃてるんですよ。聞こえますか?子供みたいに正直なんです。その彼が僕を Sonny に紹介してくれた張本人なんです。
その頃は Dave Liebman, Steve Grossman, Mike Breaker, Bob Berg 達に混じって Bob Mover も若手の先端を行っていました。彼は実力はものすごくあるのですが、この世の中、世渡りがうまい人とダメな人では差が出てしまうんですね。僕も人の事は言えませんが Bob はその辺の所が全くダメなんです。結局何時も人間関係や自分個人の問題で潰れてしまうんですね。僕は彼の音楽性、価値を認めていました。何とか彼を助けてあげようと思っていたので JazzCity の時も彼のアルバムも作りました。数年前にカナダから New York に引っ越して来て新しい彼女も出来たしこれから又人生出直しだというのでお金を貸してあげたのですが、しばらく連絡が無いなと思っていたら又ダメになってカナダに帰ってしまったとの事。どうしようもない奴なんです。馬鹿野郎!

その Bob が突然現れたんです。New York に戻って来ていた事も知りませんでした。見たところ前より体重も減って健康そうな顔しているし、うれしいサプライズでした。何年会っていなくてもスッと昔に戻って会話が始まるんです。お金を借りているのに連絡もせずにトンズラしたこと謝っているので、君が Sonny を紹介してくれたんだから、その金は紹介料だね....ありがとう! だからもういいよ。って言いました。本当にそうなんだからね。心から出た言葉でした。
ロシア人の女性と一年前に結婚したとの事。そこに一緒に来ていました。6ヶ月前に New Baby が生まれたとの事。二人の幸せを祈ります。これから又 Bob と一緒に演奏する事もあるのかも知れません。それも良いかもね。

そんな訳なのでカーネギーホールの外 56th Street の楽屋出口のところで立ち話をしながら Sonny が出て来るのを待っていたんです。そこには得体の知れない Sonny ファンがたくさん待っていて、「Tony Williams が一緒にやった時のコンサートを見たよ...」 と話しかけて来た人もいました。それは30年以上前になるんですが(1974年5月3日) 僕が始めて Sonny のバンドでカーネギーホールのステージに立ったコンサートだったんです。ゲストが Dizzy Gillespie, Charlie Mingus, Tony Williams 。今から考えると信じられない様なメンバーだったんですね。
Bob Cranshaw が出て来てヤーヤー! 抱き合ったり Shirley がいるのを見つけて大騒ぎ。今年の12月で75歳になるとの事。若くて元気で信じられない。
僕は昔 Roy Haynes のバンドに居た事もあるんですよ。Roy Haynes and Hip Ensemble。いつも会うと冗談まじりで Roy にからかわれるんです。彼のバンドを辞める時に、僕は若いんだからこれからは若い人とやるんだ.... って言った、と言うんです。そんな事言った覚えは全くないんだけれどその頃は英語もメチャクチャだっからね、そんな風に伝わってしまったのかな。カッコイイやんちゃ爺 82歳! さすがですね、リムジンに素敵な女性を連れていましたよ。

待ち疲れてもう帰ろうかなと思っていたらやっと最後に Sonny が出て来ました。ファンに囲まれてサインをしたり写真を一緒に撮ったりしているのでなかなか近寄る事が出来ないんです。路にリムジンが待っているので僕達は車のドアーの所で待つ事にしました。何かドキドキしながら待っていました。 見ていると一回り小さくなってしまった様に感じました。腰が少し悪いのかも。さんざん人に揉まれて Sonny がやっと車のドアーの所にたどり着き、Sonny!  Masuo!  抱き合って思わず Thank You、Sonny ! なんて言ってしまいました。顔を見合わせてニッコリ。 感激して頭がカラッポ。Shirley がいるので Kiss して抱きしめて How is your father ? なんて聞いているんです。よく覚えているんですね、厚生年金ホールで会っているんです。Clifton からスタジオの話もたくさん聞いているんだって。(ビートルズ プロジェクト で Clifton Anderson にも参加してもらったんです) (ビートルズ・プロジェクトについては1つ前の文↓)
あ~よかった。いろんな意味で心温まる素晴らしい夜でした。Sonny がこれからも、いつまでも末永く活躍してくれる事を祈ります。
帰り路 Mover 夫妻と僕達4人で Broadway & 56th Street を横切るとそこにあった時計がすでに午前12時30分を指していました。

MASUO

2007年3月27日
 

A Day In The Life with Phil Woods

 今朝は起きると腰と背中が痛くてどうしたんだろうと思ったのですが、考えてみると昨日は4回も雪かきやったんです。そう、こちらは昨日から 大雪になってしまいました。だから今日は New York 行きをキャ ンセルしてこの週末はペンシルバニアです。

 先日日本に行ったのは友達と新しいレーベル、言ってみるなら小さいレコード会社を作ろうという話だったのです。結局やり方、方針にくい違いがあって残念ながら僕が降りた形で終わりました。そんな訳なので今は自分でレーベルを立ち上げる方向で動き出しています。まずは自分の新作CD をレコード会社を通さずに自分で出すという事なのですが、自分以外の物も、僕が関った作品もいろいろあるのでそういう物も一緒に出して行く。etc いろいろ考えています。

 昨年の11月から Beatles の曲を120曲レコーディングするプロジェクトを また有賀君※1と組んで共同プロデュースしています。10枚組のCDセットです。3月に入ってレコーディングもやっと最後の段階に来ています。多くの Jazz Musician(約30人位かな)を使った 大プロジェクト、大変なんだけれど、和気あいあい楽しんでやっています。みんな気が入っていて一生懸命やってくれて、とても内容がいい面白い作品が出来上がると思います。こうやって又 Beatles の音楽に接していると曲の良さや何でも有りのアイデアの新鮮さ、作品の完成度に改めて感心。本当に天才的ですね。

 僕は Beatles の音楽を追究した訳ではありませんが、彼らの存在から自分の音楽性が変わる様な大きな影響を受けました。僕が初めて聞いた Beatles は高校の夏、友達と千葉の海岸でキャンプしていた時ラジオから流れて来た A Hard Day's Night です。ジャ~ンという一発目のコードの響き。中間のギターソロがワァーカッコいいな~っと思いました。
 僕がギターを弾き始めて間もないあの頃、日本中エレキギターブームに突入していました。僕はジャズギターに没頭していたのでベンチャーズみたいなギターには全く興味がなかったんですが Beatles を境に Jazz 以外のロックギターもいいなと思う様になっていったんです。Beatles の音楽にはカッコ良さと同時に内容、深さが有ったんですね。自分と同じ世代の若者がやっている彼らの音楽は直に感じるし共鳴する事が多かった。そうすると今まで脇目もふらず好きだった Jazz が一歩離れて大人の音楽だったんだなと感じる様になりました。Pop やロック音楽、特に Beatles の出現によって若者の文化が大人の文化と対等にぶつかり合う様になったんですね。今まで僕の中に有った "Jazz 最高" の図式が崩れて来た訳です。アメリカの Jazz 界にもその波が押し寄せたんですね。 Wes の A Day In The Life はあまり感心しなかったし自分も含めてJazz ギタリストがやるロックは格好悪い。そんな風に感じるようになって新たに自分のギター、音楽を求める旅が始まりました。
 僕にとって Beatles は僕のなかにあった Jazz では表現出来なかった気持ち、可能性を引っ張りだしてくれた、別の世界に目を開かせてくれたすばらしい存在だったんですが、あれから40年経った今、歴史として顧みると、Beatles 出現によって Jazz はそれまでの地位から蹴落とされてしまったし二度と時代の先端をいく音楽ではなくなってしまったんですね。だから Jazz ミュージシャンにとって Beatles を始めとするロック音楽は言ってみるなら敵みたいな音楽なんだと思うんだけれど、物事は必ず変化していくもの、同じ所にとどまっている訳ないんだからこれからも音楽どうなっていくんだろうと考えると面白いね。とにかく Jazz ミュージシャンにとって Beatles とは Love and Hate 関係なんだと思います。これはとっても深い話しだから誰か論文でも書いて下さいな。

 話は戻って、今回のプロジェクトの音楽的な所でのプロデューサーとしての挑戦は、歌なしのインストルメンタルでいかに原曲の良さを出せるかという事。 もう一つは Jazz Musician にありがちな複雑な方向に行かない様にしつつ曲を面白く料理する事。 シンプルな部分でBeatles の音楽を楽しむ事を心がける事でした。

 曲の振り分けは原則的に、大きく分けて ピアニストの Will Boulware, Gil Goldstein, Benny Green, Steve Kuhn, Bill Mays, Mark Soskin、ギタリストの Adam Rogers 達のバンドを中心にしてそれにゲストソロイストとしていろんな人に参加してもらうという手を取りました。
 参加したギタリストは Peter Bernstein, Romero Lubambo, Adam Rogers, Mike Stern 他。 僕は立ち会わなかったのですがロスアンゼルスで Lee Ritenour も数曲録音。
 Dave Sanborn が参加した曲は彼の都合で自分の所で Gil Goldstein と二人でレコーディング。そのトラックに後から Will LeeSteve Gadd のリズムセクションをかぶせました。 
最初の予定では Mike Brecker にも参加してもらうつもりだったんですが.....残念です。でも Randy Brecker に数曲やってもらいました。彼が一緒にやったリズムセクションは Gil Goldstein(piano), Rufus Reed(bass), Lenny White(drums) 。 Randy がミュートをつけて吹いたメロディーのニュアンスで一瞬にしてバンドが Miles の Bitches Brew になってしまったり (Lenny はあのレコーディングのドラマー)、本格的 Beatles ファンの僕の弟が聞いたら?? ?みたいな演奏もありますがそういったクリエイティブな部分での曲も有りだな.....と何でも有りの Beatles の懐の深さを感じました。
バンドの編成も Kenny Barron のソロピアノからアコーステックギター duet 、普通の Jazz Piano Trio、Quartet、Hammond Organ、Horn section とか Jazz Guitar、Rock Guitar etc......いろいろバラエティーがあります。
 最終的には Beatles という事で Abbey Road Studio に行って Strings とオーケストラのダビングも数曲やります。

 このプロジェクトの仕込みの段階でソロイストの一人として Alt Sax の Phil Woods の名前が浮かびました。僕が New York に来たばかりの頃、友達になった Alt Sax の Bob Mover がよくPhil の話をしていました。Bob が子供だった時 Summer Camp で Phil からレッスンを受けたんですね。Phil が師匠だったんです。それに僕がサダオさんのバンドやっていた頃、その頃 Phil はヨーロッパに住んでいてヨーロピアン リズムマシンなんていう名のバンドをやっていたわけなのですが、そのバンドのレコードよく聞いていたんですよ。だから彼には今まで一度も会った事がなかったのですが、なにか身近に感じていたミュージシャンの一人でした。
 Bill Mays に紹介してもらって、メールで依頼の話を始めたのですが、その送ったメールの内容が気に入らなかったのか、一言 "No thank you." なんて返事が来てしまったのです。勿論メールを書いた本人悪気があった訳ではないのですが面識もないのに Phil クラスのミュージシャンにメールで仕事の話をするのは本当に注意しないと誤解を招いてしまうんですね。僕の友達 Bill Mays の紹介という事もあるし このままではまずいと思って自分でメールを書きました。最高の敬意をはらい、謝罪と説明もかねて心を込めて書きました。自己紹介の意味で Sonny Rollins の事とかサダオさんの事とかも書いた訳です。そうしたら翌日コロッと変わってそんならやってもいいよって言う返事が到着。これで無事誤解も解けてメデタシメデタシ! 心は通じるもんなんですね。それからはすっかり打ち解けてメール友になってしまいました。

 彼もペンシルバニアの住人なんです。僕の所 Milford から  Delaware River 沿いに 209 を南下すること一時間、そこにある町  Delaware Water Gap に古くからあるホテルを改造して作った Jazz Live House - Deer Head Inn という店があるのですが Phil の家はその店の先をチョット入った所。
 録音の当日3月6日(余談ですが Wes Montgomery の誕生日)朝10時彼の家にお迎えに行きました。New York への送り迎え僕が自分でやるって前もって約束していたんです。その日の朝は -20 度でこの冬一番の寒さでしたが空気が澄み渡り大晴天で目が覚める様な青空。Phil の家に向かってドライブしながら気持はワクワク。
彼の家に到着。変なアクセントの日本語でオハヨウゴザイマスなんて挨拶しながら出現。さっそく New York へ出発。2時間弱のドライブです。まずはやってもらう曲のトラックを聞きながら譜面を説明。実は前日に音源と譜面を彼に届けようと思って電話したのですが “僕はジュリアードにも行ったんだし譜面読めるんだからそんなのいらないよっ.....” 頑固親父なんです。 とにかく New York に着くまで二人で話しっぱなし。Gary Mcfarland のバンドにサダオさんが日本に帰って抜けた後に Phil が後釜で入ったとか、Gary のバンドで Beatles の曲を沢山やったとか、Gary は Jazzman としては Beatles の音楽を認めたはじめての人だとか、Charlie Mariano はボストン出身で自分はマサチューセット州スプリングフィールドの出身だから地元バンド Ray Borden Band の78回転レコードの Charlie Mariano をフィーチャーした What's New をよく聞いたとか、話は遂に Charlie Parker に及び Lennie Tristano の所にレッスンに行った帰り Charlie Parker を聞きに行って楽屋に会いに行ったら子供なのに親切にしてくれてチェリーパイを一緒に食べたとか、歴史を生きて来た本人からそんな話を聞きながらすっかり興奮していました。彼は75歳。5年前に前立腺ガンの手術をしたとか、喘息があるので寝る時と仕事の前には酸素ポンプを用意してもらうとか、身体はかなりボロボロなんです。だから普通に話している時も呼吸がゼーゼー。5年前には sax が吹けなくなってしまってもうやめようと思ったそうですがそんな時に友達に勧められて Yamaha の alt sax を吹いてみたら吹けたんですね。Yamaha の楽器のおかげで自分の演奏寿命が延びたんだよと感謝していました。日本が好きで日本の食べ物の話でも花が咲きました。とにかく陽気で前向きでポジティブで積極的な人、一緒にいると身体の具合が悪いなんて少しも感じさせないし、逆にこちらがエネルギーをもらってしまう様な人なんですね。
 New York に到着。まずスタジオに彼を送り込んでから平日なので路に車を停められないのでアパートのガレージに車を止めに行く。走ってスタジオへ。今日やるのは3曲。 Bill Mays Trio のやった 「This Boy」、Benny Green Trio の 「Here, There and Everywhere」、それに Gil Goldstein Trio (Will Lee, Steve Gadd) の 「Come Together」 です。どの曲も2テイク位ずつ、チョチョイのパー っていう感じであっという間に終わってしまいました。演奏は全くよれていないしあの音がしているんです。彼が吹き始めると思わずみんなで顔を見合わせて微笑んでしまいました。本人は I'm like a bat. Can't fly in the morning.(僕はコオモリみたいなんだ、朝は飛べないんだよ)なんてジョークを飛ばしつつ、こちらの注文も快く聞いてくれるし、余裕なんです。

 レコーディングも終わったので又走ってアパートに戻り車をピックアップ。スタジオにもどり Phil を乗せて New York から脱出。ラッシュアワーになる前にマンハッタンから出るのが肝心なんです。又帰りも話しっ放し。彼はもう歯が一本もないんです。入れ歯なんですね。僕が Sonny Rollins もそうなんだよと言ったら、何と Phil の歯医者さんを Sonny にも紹介してあげたんですって。その歯医者さんは自分でも楽器を吹くのでよく解っているんだとの事。
話に夢中になって気がつくともう New Jersey から Pennsylvania に入る州境。料金所を通るともうそこが Delaware Water Gap の出口なんです。小さな町を彼の家に向かって走るとその店の所で停めてと言うので車を止めて店の中に入る。行きつけの店なんですね。この店のアップルパイがペンシルバニアで一番なんだって。僕にも一個買ってくれたんですよ。
 無事家まで送り届けて一安心。やっぱり責任大なので緊張してました。家の中に招待してくれて壁に飾ってある昔の写真を説明してくれたり(自分の若いときの写真、Charlie Parker, Quincy Jones、Duke Ellington 等々)自分の書斎、ミュージック Room を見せてくれたり、自分の世界をそのまま腕を広げて僕に見せてくれたんです。帰りには彼の DVD、CD とかも沢山もらってしまいました。

 帰り道一人になって気がつきました。すっかり少年になって気持ちが純粋になっているんです。尊敬してしまう.....彼からそんなオーラが出ていたんですね。感化されてしまいました。音楽に対する情熱でいっぱいになっているんです。そんな時って本当に幸せですね。
いつまでもそんな風に素直に感動出来る自分でありたいなぁ~と思っています。

 彼の様な人間と過ごせた一日  A Day In The Life  
 すばらしい感動の一日でした。

MASUO

●※ 1: 有賀恒夫 (Tony Ariga) 氏。JazzCityレーベルの共同主宰者
●追記: (株) U-CAN (ユーキャン) より 『ビートルズ・サウンド・コレクション ~ フォーエヴァー』 と題して発売。なお、このビートルズ曲プロジェクトでは、増尾さん自身はプロデューサーであり、ギターでは参加していません
●文中に登場のミュージシャン名のカナ表記: ウィル・ブールウェア(p), ギル・ゴールドスタイン(p), ベニー・グリーン(p), スティーブ・キューン(p), ビル・メイズ(p), アダム・ロジャース(g), ピーター・バーンスタイン(g), ホメロ・ルバンボ(g), アダム・ロジャース(g), マイク・スターン(g), リー・リトナー(g), デビッド・サンボーン(as), ウィル・リー(b), スティーヴ・ガッド(ds), (マイケル・ブレッカー(ts)), ランディ・ブレッカー(tp), ギル・ゴールドスタイン(p), ルーファス・リード(b), レニー・ホワイト (ds), ケニー・バロン(p) フィル・ウッズ (as), ボブ・ムーヴァー (as), ゲイリー・マクファーランド(vib), チャーリー・マリアーノ(as), チャーリー・パーカー(as), レニー・トリスターノ(p) チャーリー・パーカー, クインシー・ジョーンズ (producer, arranger), デューク・エリントン (pianist, band leader)

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