増尾好秋から

(No Title)   2003年6月26日(木) Page 3/3
*続き


というわけでいろんな事を考えながら聞いているうちに最後の曲 Evrytime We Say Goodbye になりました。本田(竹広)君のピアノイントロから貞夫さんがメロディーを吹きはじめる。Bassのおまさん(鈴木勲)が音を探りながら弾いているのがわかる。もしかしたら貞夫さんが突然予定にないこの曲を始めたのかも知れない。1コーラスだけメロディーを吹いて2コーラス目は本田君のピアノソロに入る。まだ少しギクシャクしている。それで3コーラス目が僕のギターソロになる。このへんからおまさんも曲がつかめたという感じでバンドがひとつになってくる。僕のソロは途中からメロディーにかわって行く。まさかと思っていたら僕はそこでこの曲を終わりにもって行ってしまう。勿論どうしてそんな事になったのか全然憶えていない。その時 あっ。。。この事だったのか と、昔 父と交わした会話を思い出しました。たまたま父はこのコンサート聞きに来ていたんです。後日 家で父と何か話していた時に、お前があのスローバラードのエンディングでなにげなく弾いたコードがなんとも美しくて天の上から響いている様だった、ってそのときの演奏をほめてくれたんです。僕も若かったし自分がなにをプレイしたかなんて次の日にはすっかり忘れてしまっていたのが常で、 “ア〜ソウ”位にしか感じなかったんだけれど、不思議にその時の父の表情とか言葉のニュアンスがくっきりと思い出されるんです。25年以上前の自分の演奏を始めて聞くという事は僕自身自分の息子の演奏を聞くみたいなもので、僕はその瞬間を父が聞いたのと同じ心境で聞いていたんです。確かにそこにはすばらしい瞬間がありました。ちょっと前までは庭を走り回って遊んでいた息子が急にギターかなんか弾きはじめて気がついたら渡辺貞夫さんのバンドに入りそのうちプイとアメリカに行ってしまった。そんな息子の演奏を聞くのは自分も同じ音楽家として、それはそれは複雑な気持ちだったんだろうと思う。もう泣けて泣けて一人でグシュグシュになってしまいました。でも泣くだけ泣いて、一段落したらなんとも言えない平和な気持ちになって急に What a Wonderful World になってしまいました。僕達ミュージシャンはいつまでもこうしたスペシャルな瞬間を求め続けているんです。他の人がどのように感じるかは又別な次元の問題で、僕にとってはあの瞬間が CD になって残ったって事、本当にしあわせなんです。

それではまた、
MASUO
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